株式会社清和物産

糖尿病(1)



高血糖はなぜ起こるのか

日常、食事として摂取する糖質(ごはんやパン、めん類など)は、上部小腸で消化され、小さな分子(主としてブドウ糖)となって血液中に吸収され全身の諸臓器を巡っています。  

そして、血液中のブドウ糖(単に血糖と呼んでいます)は、行く先々の臓器や組織の細胞によってとりこまれます。細胞のなかではエネルギーに変わったり、グリコーゲンとして貯蔵されたり、脂肪や核酸の合成材料となったりして、初めて有効に利用されるわけです。  

このように血液中のブドウ糖が次々に細胞のなかにとりこまれ、血液中から除かれていくことによって、食後の血糖はおよそ2時間経つと食前のレベル近くまで下がってきます。  
ところが糖尿病では、食後吸収されたブドウ糖が細胞のなかへ効率よくとりこまれないため、3時間たっても4時間たっても高値のまま血中に停滞しているわけです。糖尿病ではごく軽症の場合を除いて、朝食前からすでに血糖値は高くなっています。  

ふつう空腹時(朝食前をさします)には、もっぱら肝臓がグリコーゲンを分解してブドウ糖に変えたり、また、ほかの素材からブドウ糖を新たに産生したり(糖新生)して、血中へ放出し、それによって血糖を正常範囲に維持しています。  

このような肝臓のはたらきは、脳へのブドウ糖の供給を絶やさないために必須の機能なのです。なぜなら、脳は栄養素のなかでブドウ糖しか利用できないため、ブドウ糖の供給がとだえることは死の危険を意味するからです。  

ヒトが1週間でも10日でも断食ができるのは、肝臓が筋肉や脂肪の分解産物(アミノ酸、乳酸やグリセロールなど)をブドウ糖に変換し、脳に供給できるからです。
正常では肝臓からの糖放出は、血糖値が血液1デシリットル当たり60〜70ミリグラムを下回ると活発化します。  ところが、糖尿病ではこの肝臓からの糖産生が血糖値とは無関係に高まっており、脳や赤血球の需要をはるかに超えて糖を放出しているため、空腹時の高血糖が生じているのです。

すなわち糖尿病では、食後は主として筋肉や肝臓や脂肪組織でのブドウ糖の利用が低下し、一方、空腹時には肝臓が過剰にブドウ糖を産生するために、持続的な高血糖という特徴的な異常をきたしているのです。


インスリン不足と抵抗性

では、なぜこれらの異常が生じているのでしょうか。  

それはまず第1に、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが不足しているからです。インスリンは膵臓のなかに散在する小さなランゲルハンス島(膵島)と呼ばれる細胞集塊のβ-細胞で合成され、食事摂取などで血糖が上昇すると、ただちに血液中に分泌されます。

インスリンは筋肉や肝臓や脂肪細胞へのブドウ糖のとりこみを促進し、細胞内のブドウ糖の代謝を円滑に調整しています。  

また、インスリンは肝臓からの過剰な糖産生を抑え、グリコーゲンや脂肪の合成、エネルギーの産生へと向かわせるたいへん重要な役割をもっています。

糖尿病ではインスリンの絶対的、あるいは相対的な欠乏があるため、口から食べた糖質の処理(利用)が困難であると同時に、からだのなか(肝臓)でブドウ糖の産生が不必要に高まっているわけです。  

第2には、糖尿病では多かれ少なかれインスリンの糖代謝作用が弱く、インスリンを多く必要とする状態が基盤にあるようです。これをインスリン抵抗性といいます。

具体例で示せば、今健常者と糖尿病患者に、6単位の速効型インスリンを静注したとします。健常者では血糖値が1デシリットル当たり90ミリグラムから30分後に急速に40ミリグラムへ下がるのに対して、糖尿病患者では、160ミリグラムから60分後にやっと30ミリグラムしか低下しませんでした。  

この場合、血糖下降効果からみて、糖尿病患者はインスリンに対して感受性が低く、インスリン抵抗性であるというわけです。
インスリン抵抗性はとくに肥満をともなう糖尿病では顕著にみられます。インスリン抵抗性が強ければ強いほど、インスリンの必要量はふえるわけで、それだけ膵島β細胞の負担は大きくなります。  遺伝的にインスリンの合成能力になんらかの欠陥があるとすると、β細胞はついには疲弊し、対応しえなくなって、高血糖がおこると考えられています。  
すなわち、成人にみられる糖尿病の多くは、膵島からのインスリン分泌の低下と、一方では、筋肉や肝臓などインスリンの作用部位でのインスリン抵抗性が相互に関連し、発症へ至るものと考えられています。


糖尿病の原因

遺伝因子  糖尿病が遺伝と関係の深い病気であることは、古くから知られていました。ヒトの遺伝の研究には、遺伝子構成がまったく同一である一卵性双生児がよく対象に選ばれます。

後で述べるように、糖尿病にはインスリン依存型とインスリン非依存型の2つの大きな病型がありますが、遺伝の影響は病型によってだいぶ事情が違うようです。  

一卵性双生児の片方がインスリン依存型糖尿病を発症した場合、もう一方の双生児が先々同型の糖尿病を発症する一致率は30〜50パーセントであったのに対し、双生児の片方がインスリン非依存型糖尿病を発症した場合、もう一方の双生児が同じ病型を発症する一致率は、ほとんど100パーセントでした。

これらの結果から、糖尿病は病型を問わず、多かれ少なかれ遺伝が発症に関係しており、インスリン非依存型糖尿病で、遺伝の影響がより大きいことがわかります。  
また、臓器移植の際の主要組織適合抗原であるHLA(白血球中のリンパ球の血液型といえるもの)を調べると、インスリン依存型糖尿病では、ある特定の型の人(人種差があり、日本人ではDR4、DR9、BW62といわれるHLA型など)の頻度が高く、これらのHLA型を示す人は、インスリン依存型糖尿病にかかりやすい遺伝的体質をもつと考えられています。  

インスリン非依存型糖尿病にはそのような成績はまだ知られていません。この理由は、この病型がインスリン依存型糖尿病に比べて、成因的に不均一な疾患の集合であると考えられており、遺伝的に解析しにくいためとされています。
◎環境因子  糖尿病の発症がすべて遺伝子によって規定されているわけではなく、糖尿病の発症遺伝子に後天的な要因(環境因子)が加わって、糖尿病が発症すると考えられます。  

環境因子として重要なものは、肥満、過食、運動不足やストレス、それにウイルス感染やある種の化学物質などがあげられます。  

後2者は膵島β細胞を直接傷害することにより、インスリン依存型糖尿病の発症と関係し、そのほかは肥満をともなうことの多いインスリン非依存型糖尿病の発症と深い関係があります。  

ウイルスのなかではコクサッキーB4、流行性耳下腺炎ウイルスや風疹ウイルスなどが知られており、これらのウイルス罹患後にひきつづき重症の糖尿病を発症した例が、散発的に報告されています。  
また、ウイルス感染の流行後に、子どもたちの血清を調べてみると、ウイルス抗体価の上昇とともに、膵島β細胞に対する抗体も高頻度に出現することが報告されています。これはβ細胞がウイルスの侵襲を受けて破壊され、β細胞の蛋白成分(抗原)が外部に露出した結果、免疫に関係している細胞がそれを異物とみなして抗体をつくったものと思われます。  

自己の蛋白を異物(抗原)としてとらえ抗体をつくり、病的障害をおこすことを「自己免疫」といい、インスリン依存型糖尿病の発症を説明する有力な考え方となっています。  

最近の研究では、インスリン依存型糖尿病の発症の数年以上前から、すでに血液中に膵島細胞抗体がみつかっており、β細胞の傷害が糖尿病の発症に先行して潜在的につづいていたことを裏づける貴重な事実といえます。

おそらく、ウイルス感染は発症の引き金となったにすぎず、自己免疫によるβ細胞の破壊がより重要と思われます。  
一方、インスリン非依存型糖尿病の発症時には、しばしば肥満がみられます。過食や運動不足により体重が増加すると、インスリンの需要がふえます(インスリン抵抗性)。インスリン分泌の予備力に低下があると、このインスリン需要の増加を代償しえず、ついにはインスリンが相対的に不足し、血糖が上昇して、インスリン非依存型糖尿病が発症すると考えられています。




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