虫も食わぬ汚染米
昔、日本の家庭の米びつには、コメの虫であるコクゾウムシ(穀象虫)がいたものである。体長3ミリぐらいの黒っぽい虫、頭の先がゾウの鼻に似ている。コクゾウムシはコメを主食として生きていたが、今はいなくなってしまった。原因は明確である。戦後、農薬を使った汚染米を食べてきたコクゾウムシは、体が小さいために耐性がなく、次々と死んでいったのである。 コクゾウムシは、全部絶えてしまったかというとそうではなく、東北の山形とか福島とか米どころの一部には生きている。農薬を使わないコメを作っているような地帯にいるのである。コクゾウムシが食べるコメが本当のコメであって、コクゾウムシが食べて死ぬようなコメは決してよいコメではないということだ。 その点で言えば、野菜も虫食いの跡のあるようなものが自然の野菜といえる。農薬で汚れた野菜には虫は寄っていかないから虫食いの跡も出来ない。これは危険な状態なのである。 さらにいえば、昔、各家庭のかまどの裏あたりにいて、チンチロ・チンチロとないていたカマドコオロギも姿を消してしまった。やや大きめのコオロギで、カマドの余熱が好きだった。今はガス、プロパン、電気などを燃料とする炊飯器でご飯を炊くものだから、カマドコオロギが出てくる余地がなくなってしまった。もっとも、やや小型の古来からいるヤマトコオロギは、暖房がなくとも生きられるので健在である。 それではカマドコオロギは絶滅してしまったかというと、これもそうでもない。専門家が調べたところ、別府、熱海、箱根といった温泉場の地熱のあるところにだけ生き残っていることがわかった。カマドコオロギは、戦後の家庭版エネルギー革命の犠牲者なのである。 それにしても、汚染米のために絶滅寸前のコクゾウムシが、人間社会に訴えかけるものは強烈である。そして、このコクゾウムシとカマドコオロギが、どっこい、死んでたまるかと、懸命にがんばっている姿も教訓的である。 |